駅構内を抜け、それからバスに乗る。目指すは、美和の家…。


(…やっぱりちょっと心配だな)


良明とはもう別れていて、別れた理由(わけ)は良明の元カノが原因…って知ったらどう思うだろう?
それを話した時、失った記憶が戻るのかな?それとも…記憶は戻らずただ事実を知ることになるのかな?

どちらにしろ、美和にとったらツラい記憶…だよね。
やっぱり話さない方が賢明?

色々なことが頭の中を巡る。そんな時、良明が私に小さく言う。


「大丈夫、俺に任せとけ」


………。
良明のその自信はどこから来るんだろう?
何を根拠に「大丈夫」と言っているんだろう?


「…良明って、やっぱり馬鹿」


これから大切な話をしに行くというのに、良明はケラケラと笑ってる。
でも、そんな顔を見ると心が落ち着くのはなんでだろ?
良明が言うと、本当に「大丈夫」って気になるんだよね…不思議。


「そんな馬鹿に助けられたのはどこのどいつだ?ん?」

「………死ね」


訂正。
良明の顔を見るとイライラする。
落ち着くなんて思ったのは、何かの間違いだ。


…それから私たちはほとんど話すことなく、美和の家付近の停留所で降りた。
もうすぐ美和と会う。久々の、再会…。


「ヤバい、ちょっと待って」


ふ、と良明は歩みを止め、空を仰いだ。
それからゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐き出す。


「なんか、苦しい」

「え?ちょっと…大丈夫?」


電信柱に体を預け、ヨロヨロと力無くその場に座り込む。
先程とは違い、今度の呼吸は浅くて、下を向いたまま動かない。


「…良明?」

「………」


名前を呼んでも反応は無い。
下を向いた良明の額から、汗がぽたりと地面に落ちた。


「…ほんとはすげー緊張してる」


やっと話した良明は、私を静かに見つめ、


「…男らしくないな、俺」


と言葉を続けた。

それからまた下を向き、ゆっくりと立ち上がる。
そして見せた顔はいつもと同じ笑顔。
ううん、同じ笑顔を一生懸命作った顔。


「…良明。大丈夫だよ、きっと」


今度は私が「大丈夫」と言い、その手を握った。