「…馬鹿みたいでしょ、キスされて動けなくなって、それから…セックスまでされちゃうなんて」

「………」


あの日Yくんは自宅の自室に私を連れ、そして体を求めてきた。
どうすればいいかわからない。拒否しようとしたけど、無理だった。


「“今の私”ならそんなこと絶対にさせなかった。
なのに“昔の私”は、隙を与えてしまったんだ」


だから。
もうあんな思いをしないために過去を捨てた。
もう絶対に、誰にも隙を与えたくない。
そう思っていたのに。


「…今日、隙を与えたつもりはなかったのにあんなことになっちゃった。
結局ダメだね、私。何も出来ないや」


男の人の力には勝てない。それがイヤと言うほどわかった。
ずっと頑張ってきたのに、結局それはなんにもならなかった。

そんな私に、良明が言う。


「…結局お前、そのYと付き合ったの?」


真剣な顔。私は首を横に振り、続きを話す。


「私は、性処理機と一緒の扱い」


誰も私のことなんて気にしない。それをYくんは利用した。
私がどんなに傷つこうが、私は見えない存在だったから…だから利用されたんだ。


「…良明は、どことなくYくんに似てる。て言うかイニシャルも一緒だし。
だからね、本当はあんたと一緒に居たくない。見ててムカつく」

「………」


私の言葉に良明は黙り、それから小さなため息をついた。
そしてゆっくりと口を開き、言う。


「…大体わかった」


それだけを言うと、私の髪をぐしゃぐしゃっとして笑った。


「悪かったな、過去のことなんて話させて。
だけど俺、お前のことを知れて良かったと思ってるよ」


立ち上がってから襖を開け、振り返った時にもう一度笑って見せた。


「お前は俺のこと嫌いかもしれないけど、好きになってもらえるよう努力する。
俺とYは違う、それを証明するために。
おやすみ」