……。


少し考えた後、良明は言う。


「どこからが裏切りでどこからがそうじゃないのか俺にはわからない」


それが良明の答え。
曖昧だけど、多分それが一番良い答えなんだろう。
…「裏切られた」と私が思っても、相手は「裏切ったつもりはない」と言う。つまりは、それが答え。


「………。
私、高校に入学する前に今住んでるところに引っ越してきたの。だから今の学校を受けた」

「うん」


良明は襖に寄りかかってからまた私を見る。
思い出したくない過去、それを話す私を真っ直ぐに…。


「…知ってると思うけど、私は三つ編みメガネの冴えない奴だった。
誰も私の名前知らないんじゃないかってくらい、友達も全然居なくて」


いじめられてたとかそういうのじゃない。
私の存在自体を誰も知らない。透明人間のような…誰の目にも入らない感じで毎日を過ごしてた。
それを「いじめだ」と言えばそうかもしれない。
だけど少なくても私は、そうだとは思っていなかった。


「…ある日、放課後の教室に残っていた私に話しかけてきた男の子が居た。
クラスメートでみんなの人気者、Yくんとする」

「うん」

「…その子が、“付き合おう”って言ってきたの。
話したこともなかった男の子が急にだよ?」


何かの罰ゲーム。そう思った。
だけどYくんは、優しい顔で私を抱き締めて、そしてキスをしてきて…「本気なんだ」って思わせる動作に、体に力が入らなくなった。