……。


病室を出たら麻実が泣きそうな顔で俺を見つめ、その隣では良明くんが困ったような顔をしている。


「私、この先どんな顔で美和に会えばいいのかわからない…」


麻実のことをほとんど覚えていない美和。
親友だった二人。だけど今は違う。それが麻実を苦しめる。


「…麻実、もうすぐバイトに行くだろ?
こっちは大丈夫だから、向こうでしっかり仕事してきな」

「冬馬さん。私、バイトなんて気分じゃないよ…」


暗い顔をする麻実。だけど言わなくちゃいけない。


「俺も仕事なんて気分じゃない。だけど明日からまた仕事があるんだよ。
やらなきゃいけないことがあるなら、それをしっかりやる。
お前が仕事を放棄したら、大変なのは経営者…つまりはお前の親戚。
あのね、今から別の人を雇うのって大変だと思う。それに美和の穴だって埋めなきゃいけない。
麻実、お前が逃げ出しちゃダメだよ」


逃げ出しちゃダメ。それは自分自身にも言い聞かせている言葉。
本当はずっと美和の傍に居たい。俺に出来ることがあるなら全て引き受けたい。


「俺も頑張るから、麻実も向こうで頑張りな?
何かあったら必ず連絡する。何も無くても連絡する。
だから、逃げないで頑張ろう?」


その言葉を聞いた麻実は考え込んだ後、小さく頷いた。
それから、隣に居た良明くんが小さく笑う。


「しょうがない。俺が助っ人になってやろう」

「えっ…?」

「だーかーらぁー。俺が美和ちゃんの代わりにバイトを手伝ってやるって言ったんだよ」


良明くんは言い、麻実の手を引いて病院を出て行った。



――その後、何かしらのやり取りがあったらしいが…麻実はそれを言わなかった。
そして数日後。良明くんは麻実と共に田舎町にある海水浴場へと向かう。
勿論遊びに行くわけではなく、助っ人として働く為に。




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