「先にどうぞ…」

そう言ったのは香奈枝だった。

「じゃあお言葉に甘えて…」

俺は一呼吸置いて切り出した。

「記憶喪失って、嘘だったの?」
「うん…ごめん…」
「事故も嘘?」
「事故は嘘ちゃうよ。ほんまに事故ってん」

香奈枝の口調が関西弁になっている。
少し懐かしく感じて、ホッとした。

「ならなんで嘘ついたん?」
「それは…」
「嘘つく必要があったん?」

俺も関西弁に戻ったけど、まくしたてるように言った。
それから俺はハッとした。
香奈枝が涙目だった。