龍司は、ときどき
あたしを置いて出かけていく。



逃げようという気力より、


とにかくおなかがすいて、倒れそう…



龍司が出かけている間も、
あたしが一人になることはなかった。



見張り役?

龍司がでかけるときは必ず誰かやってくる。





その日やってきたのは、

龍司と初めて出会った日、真由美とあたしに声をかけてきた男だった。



龍司が出ていくと、
男はぽつりと言った。



『…覚えてる?…』



『うん…』



男は哀れみを含んだ目で、悲しくあたしを見つめた。


もしかしたら、

もしかしたら、こいつなら


あたしを解放してくれるかもしれない。



『ねぇ、あたし帰りたい。どうにかして?』



『……そうしてあげたいけど、俺には無理だよ…。

龍司さんには逆らえないんだ。ほんとにごめん…』



『どうして?あたし、どうしたらいいの?』



『……ごめん』



車の音がする。



龍司はすぐに帰ってきた。


あたしたちはそのまま、黙り込んだ。



龍司はあたしたちの様子を見ると、何かを察したかのような顔で言った。



『おまえ、俺がいない間に、手出してないだろうな?』



『龍司さん!そんなことするはずないですよ』



そのまま、二人は外に出ていき、しばらくすると龍司が部屋に戻ってきた。



『お前、俺のこと怖い?』


『…ううん。』



あたしは首を横にふった。 


そう言わないとまた殴られるんじゃないかと思ったから。



『お前、名前なんてゆーの?』



『……結城…』



あたしはそのとき、

龍司に初めて自分の名前を口にした。