「先生、わたし・・・
もう何もないよ。
赤ちゃんも先生も・・・」



 「俺はここにいるよ。」



 「別れようって言ったじゃない!!
あの女の人のところに行くんでしょ?」




 「それはちがうんだ。」




 「ちがう???」




 「俺が勝手に藤堂との仲を勘違い
したんだ。
希愛には藤堂のような同世代の恋人の
方が幸せになれるんじゃないかって。
一度は諦めようとした。
でも、そんな簡単じゃなくて。
元彼女を呼びだしては、酒を飲み、
酔えなくて、浴びるほど酒飲んで、
そんでベロンベロンに酔っぱらって。
情けないよ。
希愛が大切な話しがあるって言った時も
藤堂とのことだと決めつけて、希愛の
口から聞くくらいならって、きつい
言い方した。
別れようなんて思ってもないのに。
別れられるわけないのに・・・。
愛してるんだ希愛!!」




 「そんな・・・。」



 「それに希愛は知らないと
思うけど、俺はずっと希愛を
見て来たよ。
海外に移住してからも。
毎回送られてくるお義父さん
からの手紙には、必ず希愛の
写真が入っていた。 少しずつ
大きくなる希愛をいつも
見ていたんだ。
希愛が、大きくなったら結婚
してくれるって言ってくれた
約束だって俺はしっかり
憶えていたよ。」


 「先生・・・」



 「だから、これからも
一緒に生きていこう。

おいで・・・希愛。」



俺が差出した手に希愛の
手が触れる。



俺は、その手を握りしめ
希愛を引き寄せる。



俺の腕の中に希愛がいる
ことがこんなに幸せだと
いうことを、俺は失いかけて
気付いた。



俺にとって希愛は物ごころ
着いた時から大切な存在
だった。


そんな希愛が、俺のそばに
いてくれる。


俺はちからいっぱい
希愛を抱きしめた。