宛て名のないX'mas


(あ、そうだ)


裕美は鞄の中をゴソゴソと探り出した。


「これ、もういらないからアンタにあげる」


裕美はラッピングされた赤い紙袋を、乱暴に亮太に押し付けた。

亮太は「何?」とハテナを飛ばし、それを受け取った。



中身は、あの、白い手編みのマフラー。


「(渡しちゃった…)」


裕美の表情はその瞬間、緊張でこわばった。亮太は袋の中身をガサガサと探り、中か
らマフラーを引っ張り出した。


「マフラーじゃん!って、手編み?!」

「な、何よ、悪い?」

「いや、網目ガタガタだなって(やべぇ、めっちゃ嬉しい!)」

「もうっ返してよ!(やっぱりコイツ、乙女心全然分かってない!)」



恥ずかしくて、裕美はやっぱりあげなきゃよかったと顔を赤くした。

すると亮太は「あ」と声をあげて、裕美を見た。



「でもこれ、孝志先輩にあげるはずだったんじゃ…」


「別に、そういうつもりじゃないよ。そんなガキっぽいの、孝志先輩には似合わないでしょ」



裕美はハッとした。


「ガキ?」

「あ(シマッター)」


亮太はふーんと顎を触り、何度も頷いて裕美を見た。



「…(さては裕美、俺のために。そっか、そっか)」

「…(口元緩んでるし。完全に図に乗ってる!)」

「…(たく、素直じゃねぇな)」

「…(あー、気まずい…)」