宛て名のないX'mas


くるっと裕美を振り返って、指を指して一言。


「あ、あー!お前、真っ赤なお鼻のトナカイさんだぁ!」

「!!」



裕美はピシッと固まった。

頭の中でその言葉が響く。



(トナカイさんだぁ、トナカイさんだぁ…さんだぁ…だぁ…)



見る見るうちに裕美の表情が険しくなっていく。

亮太は「ゆ、裕美ちゃん?」と恐る恐る顔を覗き込んだ。



「(ダメだコイツ!ムードぶち壊し!!)帰る!」


裕美はバッと手を振り払い、スタスタと歩き出した。


ピルルルルー。



「えっおい、ちょ!」

「おととい来やがれ!!」


裕美は拳のきいた声で、威嚇する猫のように、亮太に牙を向け怒鳴った。

その直後、すぐに電車のドアが閉まった。


ドアの内側でべ~っと舌を出す裕美。


亮太は「あ~!電車!」と叫んで、電車を追いかけた。