宛て名のないX'mas

「裕美!!」


裕美も孝志も、ばっと後ろを振り返った。


(うそ……)


「亮太…っ?」


亮太は息を切らせながら、「ギリギリだし!」と呟いて、裕美の手を強引に引っ張り走り出した。

裕美は状況がすぐに理解できずに、目をぱちくりさせた。


「おいっ亮太!」


孝志が閉まってしまった扉をバンバン叩いて叫んだ。


「先輩ゴメン!」


亮太はそう言い捨てて、ぐんぐんと走った。

そして、だんだんとその足は遅くなり、手はそのままで歩いた。


光が溢れる道を歩いた。

裕美は引っ張られながら、騒がしい人ごみの中で声を張り上げた。


「痛いってば、ねえ、亮太?」

「うるせぇ」



亮太はずっと鼻をすすって、手をさらに強く握り、前へ前へと歩いた。

亮太の表情は見えないけど、耳が赤いのが見える。




(ねえ、亮太。どうして―…?)




繋いだ手が温かくて、優しくて。

涙が溢れそうになった。



二人はそのまま遊園地を出て、駅までの道を黙って歩き続けた。