宛て名のないX'mas


「じゃあ、入ろっか」


じっと目を見つめられて、裕美はドキドキしながら、「はい」と笑った。


二人はまず、遊園地の定番であるジェットコースターをはじめ、パンフレットを見ながら、次々にアトラクションに乗った。



「怖かったぁ~!」

「あれ、ゾンビに追いかけられた時!あん時はマジで死ぬかと思ったよな!」

「先輩にも怖いものあるんですね」

「当たり前じゃん。俺はスーパーマンじゃありませんよ?裕美ちゃん?」

「あはは」



お化け屋敷を出て興奮しているからか、二人はものすごくはしゃいでいた。

孝志のいつもと違った一面も見れて、裕美は思わず微笑んだ。



(これでいいの。裕美。

これ以上の幸せはないじゃない)



裕美は少し前を歩く孝志の背中を見てぼーっとした。

どんどん人に流されていく。


次第にどんどん孝志の背中は遠くなってしまい、裕美は慌てて前に進もうとするが、うまく歩けない。


(はぐれちゃった)


裕美は道端に避けて、しゃがんだ。

はぐれたのは、何?
孝志を思う気持ちじゃないだろうか。


なぜかすぐに立ち上がることができなくて、孝志を探しに歩き出すことができなくて、裕美は膝の上にうつ伏せた。


なぜこの足が動かないのか、動きたくないのか、分からなくて。