宛て名のないX'mas


「こんばんは。追加のお酒持ってきました」


そこに入ってきたのは心なし元気のない亮太。

「あれ?」と森田と敏子は瞬きをし、首を傾げた。



亮太は、そんな二人の表情に、「あの?」とハテナを飛ばした。

敏子はハッとして、ご苦労様と言って、亮太に近寄る。


亮太は、作業をしながらもチラチラと店の奥に目をやり、キョロキョロと何かを探していた。

敏子は、何かに感づいたように言った。



「裕美ならさっき出かけたわよ。すっごいオシャレして」

「えっ?!」


亮太は心の中を読まれ、びくっとし、顔を赤くした。


「俺は、別に…っ」


森田はそんな亮太の姿を見て、優しく微笑んだ。


「誰でも恋には臆病になるものだけど、後悔だけはしないでくれよ、青年」

「えっあの……?」

「まだ間に合うぞ」



亮太は森田の言葉を聞き、ぎゅっと唇をかみ締めた。



心の中で裕美が溢れて、愛しくて。

ああ、こんなにも惚れてたんだと感じた。


そして、ダッと店を飛び出していった。



森田は「またよけいなお世話だったかな」と笑って、ビールを飲み干し、おかわりと言った。


敏子はおかわりのビールをそそぎ、自分もお酒を手に持ち、二人は乾杯した。



「何だってできるわよ。だって今日は、クリスマスだもの」