宛て名のないX'mas


―…

「茂さん、ごめんなさいね」


裕美が出て行ってすぐに、敏子は森田に小さく謝った。

敏子が裕美に結婚のことを話したことを森田はもう知っている。


森田は枝豆をつまんで、また微笑んだ。



「難しい年頃だからね。

僕は、裕美ちゃんの父親面をするつもりはないですから。受け入れてもらいたいなんて、ぜいたくは言いませんよ」



森田がそう言うと、敏子はやるせなさそうに微笑んだ。

そして、そんな空気を壊すかのように、森田が話を切り出した。



「そういえば、裕美ちゃんは誰と遊園地に行くんでしょうね」

「そうね。あの子、何も言ってなかったけど」

「この前の、酒屋の彼かな?」


森田がニヤリと笑うと、敏子はぱあっと笑って、



「亮太くん?そうかしら。そうかもしれないわね」

と何だかはしゃいでいる。


話がだんだん「若いって素晴らしい」的な方向に行こうとした時、店の戸が開いた。