宛て名のないX'mas


「おめかししちゃって、デート?」


下に降りると、敏子がニヤニヤと裕美を見た。


店はクリスマスだからか、心なしカップルが多い様子だ。

まったりとお酒を交し合っている。


裕美は「まあね」とふざけて笑った。

上手く笑えなかったのは、またあの席に、森田がいたからだ。


(ああ、やっぱりサンタクロースだ)


自分に向かって微笑んだ森田を見て、裕美は心からそう思った。


「遊園地へ?」

「あ、はい。森田さんにいただいたチケットで」

「オジャンにならなくてよかった」

「ああ、はい」


裕美はやけくそに笑った。足取りは重い。


「一番大好きな人と行くの?」

「え?」


(そうだよ。一番、大好きな人と…)

森田は、裕美の曇る表情に気がついたのか、視線を落として、ビールを一口飲んだ。



「後悔だけは、しないようにね」


(は?後悔?何でよ?)


裕美はカッカっカーと来て、ぎゅっと唇をかみ締めて、

「よけいなお世話です!」と言い放ち、その場を立ち去った。


「裕美!」と敏子が声を張りあげた時には、もうピシャッと戸が閉まった後だった。


(後悔なんてしない!

だってあたしは孝志先輩が好きなんだから…そうだよ。

後悔なんて、するわけない!)