宛て名のないX'mas


ついにクリスマス当日。

裕美は夜遅くまでマフラーを編み続け、やっと完成させた。


ラッピングで包み、一応鞄の底にしまいこんだ。



今日は、孝志とクリスマスデートの日。

ずっと夢見ていた、ロマンチックなクリスマス。


だけど、裕美の顔色はあまりよくなかった。


気を抜くと、昨日の出来事を思い出してしまう。


亮太の寂しそうな顔。

ココアの温もり。


(あ~…もう、そんなの忘れて!)


そんな時、着信音が鳴った。

孝志だ。


「はい?」

『あ、裕美ちゃん?俺。

じゃあ、今日、四時に遊園地の前でいいかな?』

「はい。分かりました!」

『はは、めちゃめちゃ元気。うん。じゃあ、四時に』

「はい!じゃ…」


『あ、裕美ちゃん』

「はい?」


『大事な話があるんだ。会ったら、話したい』



孝志は真剣な声で言った。

それだけでとろけそうなくらい、それは王子様の囁きだった。


裕美は、心臓をバクバクさせながら、「はい」と小さく答えて頷いた。


『じゃあ、楽しみにしてるな』

そう言って、孝志は電話を切った。

裕美は、まだパジャマ姿。
もう昼過ぎだが、クローゼットから、服を選ぶのに迷っている所だ。


その格好のままで、すっと目を閉じて深呼吸した。


(今年こそロマンチックなクリスマスを過ごすんだ。

亮太なんて、関係ない)


「よしっ!」


裕美は、ぱっと目を見開いて、服選びを再開した。とびきり女の子っぽい服にしよう。

せめて格好だけでも、孝志に釣り合えるように。



でも、演技はしない。

できるよね?好きなら、ありのままの自分を出せるはずなんだ。


裕美は、何度も自分に言い聞かせながらやっとのことで服を決めた。


コートの下には、花柄のワンピース。足元は茶色のブーツ。

髪はゆるく巻いて、ふわっとおろした。


メイクも、派手になりすぎないようになるべくナチュラルに仕上げた。

そして、バッグを持って、下に降りていった。