宛て名のないX'mas


「あたしは、反対したり、やだって言える立場じゃないのに。ここまで大変な思いで育ててくれたってのに」

「うん」

「でも、本当は嫌なの」

「うん…」

「お母さんを誰かにとられちゃうのが嫌なのかな、あたし。だから、森田さんのことも目の敵にしちゃってる。本当は全然悪い人じゃないのに。優しいのに。あたしが子供なだけなのにね」



裕美はココアで手を温めながら、少し腫れた目で亮太を見て、微かに微笑んだ。

亮太は、その表情が何だか切なくて、真剣に何度も頷いて、「そっか」と呟いた。



「でも、えらいじゃん。ちゃんと母ちゃんの幸せ願ってやれんだから」


裕美は「そんなんで褒められても、全然嬉しくない」と言ってツンと横を向いた。

亮太は少し笑って、


「でも、ちゃんと裕美の気持ちは母ちゃんに伝えるべきなんじゃねぇ?

本当は嫌だとかも全部さ。結果はどうなったとしても、母ちゃんは裕美の本音が聞きたいと思うよ」


「そうかなぁ」

「そうだよ。言いたいことは言う!そうしなきゃ、胸くそわりぃじゃん」



亮太はそう言って、背もたれに寄りかかった。裕美はずっ、と鼻をすすってから、


「何か亮太のくせに、超マトモなこと言ってる」と笑った。

「てめ、人の厚意を!」と亮太が少し顔を赤くして言い返した。


「でも、ありがと。少し楽になった」


裕美が小さく言うと、亮太は一瞬あっけにとられてから、「おう」と笑って、立ち上がった。


「あんま一人で抱え込むなよ?お前の悪い癖」

「…ハイ」


「…孝志先輩のことも、俺、応援すっからさ。好きなんだろ?」




裕美は一瞬かたまった。