宛て名のないX'mas


「お前、どうした?とぼとぼ歩いて」

「……亮太」


(あれ、何だろう)

「そんな薄着で風邪ひくぞ。俺も今宅配行ってきたんだけど、さみぃな~」


(何で、涙が…)

「…裕美?」

「…うー…」


裕美は思わずそこで泣き出してしまった。

亮太の右腕をつかんで。


信じられないほど、裕美はホッとしていたのだ。


「はっえ?ちょ、どうした?何かあったのか?」と亮太は慌てて顔を覗きこみ、泣き止みそうにない裕美の頭を「泣くなって。な」と言って、左手でよしよし、と撫でた。


その手がすごく優しくて、裕美はさらに泣いた。



二人は、公園の噴水の前のベンチに座って、しばらく黙っていた。

亮太が気を利かせて、温かい飲み物を買ってきた。


「ココアとコーヒーどっちがいい?」

「…ココア」


亮太は「あいよ」と缶を手渡し、自分はコーヒーを開けて一口飲んだ。

改めて聞くと、亮太は風邪気味のようで、少し鼻声だ。



裕美は、少し落ち着いてから敏子が結婚したいと言い出したことを話した。



すると、亮太は少し驚いたような顔をしてから、鼻のてっぺんを触った。

これは、亮太が言葉に詰まった時にするいつもの癖だ。


沈黙を破ったのは裕美の方だった。