裕美が「本気なの?」と聞く前に、敏子は真剣な目で、
「お母さんね、本気なの。でも裕美に反対されたら、考え直さなきゃなって思ってたのよ」
(反対に決まってんじゃん!)
なんて、裕美は言えなかった。
敏子元の旦那、裕美の実の父親は、裕美が小学生になって、まもなく離婚し、他の女の人の所へ行った。
それからというもの、敏子は女手一つで、裕美をここまで育ててきてくれたのだ。
母の幸せを願うのが、娘の役目ではないか。
それでも、それでも、やっぱり認めたくなくて。
だけど、これからの人生、母には自分のために生きて欲しい。
裕美は敏子の顔を見ないで答えた。
「反対なんてするわけないじゃん。お母さんが幸せなら、それでいいよ。あたしは」
「裕美」
「そんな、娘に気なんか使わなくていいから!ねっ。一番好きな人と幸せになってよ」
敏子は、少し戸惑いの表情を見せてから、ふっと笑って、「ありがとう」と囁いた。安心したんだか、ごめんねって気持ちなのか。
心なしか、その目にはうっすら涙が浮かんでいて。
裕美は、言葉に詰まってしまい、急いでうどんを食べきり、笑顔で、「ごちそうさま」と言って、流し台に持っていき、階段を登った。