「いいのか…?」

「え…?」

まだ抱きしめられたまま、黒崎君は言った。少し、声が震えている気がした。

「俺、最初、お前のこと恐がらせたし…。高校の頃もまともな生活してないから…」

これから先、傷付けるかもしれない、彼はたぶんそう思っているんだろう。そんなこと今考えても仕方がない。その時はその時で考えよう。二人で話し合おう。

私は回した腕に力を入れて、

「確かに恐いけど、黒崎君は優しい人だよ。いいの、それで。これから先、お互い傷付くことがあるかもしれない。でも、今、この時を思い出せば少しは楽になれる」

だからこれで良いの、と呟くと黒崎君はありがとう、と耳元で囁いた。

頭の上には黒崎君の手の感触。上から下へ移動する。それがすごく気持ちいい。

想いを寄せている人と気持ちが繋がったとき、人はこんなにも満たされる。一生添い遂げていくのかもわからない未知の中で、この瞬間だけは堪らなく嬉しくて涙が零れる。

私は目に溢れた涙を頬に流しながら、彼をきつく抱きしめた。





おわり