梶野富神宮は街から外れた比較的小さな山の上にある。
まず、神宮に入る前に、そびえ立つ真っ直ぐに伸びた太くて高い神聖な二本の杉が迎えてくれる。そこがパワースポットとして人気になった由縁だとか。


神宮まで続く道のりは意外にも遠くて、日々運動不足の私には辛いものだったが、清々しい空気が癒してくれたので、なかなかこういうのも悪くないと思った。

しかし、それもつかの間、歩いている途中から神宮に近付けば近付く程、何か得体の知れない渦巻いた重い空気が迫ってくる。自分では説明のできない事が余計に怖く不安な気持ちにさせていく。

それが余計に神経に障ったのか、神宮に到着する頃には、ひどい寒気に襲われ、皆が汗をかいている中で私だけ唇を震わせていた。

迷惑をかけまいと平気なフリをし続けていたが、それも…倒れそうなくらい限界が近付いている。


もう駄目かもしれないと思った時、御神木の前を通ると幾分か気持ちが落ち着いた気がしたのだ。

――…あの寒気が和らいだ?何だかあったかい…?

私は何かに導かれたように
自然と足は左側にある杉へと向かい、抱きついていた。
―――というよりは抱かれていたという感覚の方がしっくりくるかもしれない。

皆は普段の私から想像できない行動に目をまるくしていたのだけれど。



『た…よ…』


―――…?


『き…つけ…かよ』


―――誰?美知子?…じゃないね。


声というよりは脳に直接響くような感じだった。
ただ、全部を聞き取ることができない。


―――もしかしてこの杉から?

頭ではありえないと思いつつも、自然にそれを受け入れている自分がいる。

周りの世界を遮断して、ぐっとこの声だけに集中してみると

『気を…つけ…て』


『かよ』


『けい』


―――気をつけて?かよ?けい?


しかし、その後はどんなに頑張って神経を研ぎ澄ましても聞いても、聞き取れず、そうしてるうちに杉はもう何も言わなくなってしまった。






………南?


……南さん?



はんなぁっ!


「……み…ちこ?」

皆にずっと呼ばれて、肩まで揺さぶられていたらしく、ようやく気がついた。