「忘れられないのか?」
「……やめよっ…この話は終わり!」
立ち上がる日和。
忘れられる訳がない…ー
愛里子を殺し…
彼女の一生分の恋心を奪った……ー
3年前の事故以来、日和は弥生に一度も会っていない。
あれ以来、弥生美桜の作品は売れなくなり、事務所もなくなった。
彼女が、今どこで何をしているのかは当時のアシスタントでも分からないという。
オレのせいだ…ー
彼女が得意の恋愛漫画が売れなくなったのは…
彼女の恋心が消えたせいだと思う…ー
日和は自転車を走らせていた。
ペダルが壊れるんじゃないかと思えるほどの妄スピードで。
そして、あの場所に立ち寄る。
かつては広々としていた海沿いの公園。
今は、その面積の半分が老人介護施設となっていた。
数年後には、残りの半分も高級マンションの土地になることが決まっている。
思い出の場所は…
なくなってしまう…ー
弥生、そして愛里子と初めて出会った場所。
自転車を停めて、日和は歩きだした。
五月晴れの良い天気。
潮の香りが柔らかかった。

