「仕事じゃなくて、仕事を辞めに行くの」
日和はニヤっと笑う。
しばし呆然とする善さん。
「そーか…辞めるのか」
「そう、ニート」
「困ったな。わしの年金じゃ、お前の面倒みれないぞ」
善さんは深入りしないで、さらりと冗談らしく流した。
日和の顔を見て、いつも彼の心境を捕える。
善さんはそういう人だった。
「植物には金かけてるのにオレにはかけられないのかよ」
笑う善さん。
「ひでーな」
「でも、植物も日和もわしは、とっても愛しとるぞ」
「…なんか気持ち悪いんだけど…」
善さんはいつものように豪快に笑った。
嬉しかった…ー
冗談でも…
愛してると言ってくれる人がいること…ー
「じゃ、いってくるわ」
「おう!ニート万歳!」
地面を蹴り、自転車に飛び乗る日和。
坂道を加速しながら下っていく。
潮の香りが今日も街を癒している。
太陽が眩しい。
日和はサングラスも帽子もなしで爽快に風を切った。
いつもなら、律壱の車で走る道。
事務所までの長い道のり。

