いつもはワックスでピョンピョン跳ねてる髪が濡れてペシャンコになっていて。
おまけにしっかり頭を拭いていないのか、少し伸びた髪の襟足の部分からポタポタと雫が落ちている。

あれでいて裕也はしっかりとこの父親の遺伝を受け継いでいるため、正に水も滴るナントヤラという言葉をその身を持って表現していた。






「ね、姉ちゃん…お、おはよ」
「アンタ…それ、」
「!」


もちろん、もう何年も一緒に暮らしてる弟の風呂上がりスタイルなんかにいちいち騒ぎ立てるようなことは無い。
が…それよりも私が気になって目が離せなかったのはその手にある、白いもの。

裕也はそんな私の視線に気付きギクリと肩を揺らし、慌ててその白いもの…つまり裕也自身の白いカッターシャツを慌てて背後へ隠した。





「…それアンタの血?」
「ち、違えよ!これは相手の血がちょーっと付いただけで俺は一発もくらってな……あ」
「…。」


裕也が隠したカッターシャツは、間違いなく昨日私と鉢合わせになった時に着ていた制服だ。
そしてそこには赤い血が付いていたのを私はハッキリと見えてしまった。

裕也はあまり私にそう言った、血生臭い系の話を聞かせようとはしなかったから。
珍しく口を滑らせ、顔を引き攣らせていた。



「あ、あのさ姉ちゃ…」
「はいストップ」
「!」






そこへ何か言おうとした裕也…の、言葉を遮ったのは。相変わらず爽やかな笑顔を浮かべた父だった。
…しかし私はその笑顔の裏に、何か別の意図が含まれてるということを今ではもうよーく解ってる。

裕也、ご愁傷様。




「心ちゃんは先にご飯食べていなさい。お父さんはちょっとこの馬鹿の洗濯をしてくるからねー」
「痛えよ!離せ糞親父!」
「あーん?なんか言ったか馬鹿息子」



ニコリ、と最後に私の方へ笑いかけ。

そして裕也の後頭部をなんと片手で鷲掴みし痛そうにする実の息子になぞ目もくれず、そのまま引きずるようにしてリビングから出て行った。