お嬢様高校と呼ばれる桜ヶ丘にも、私のようにまるで一般人の生徒はいない訳じゃない。
その事件の被害者でもある2年の先輩もそうであった。
なんでも先輩は家がこの近く…つまり事件現場のバス停の地下鉄にあるらしく、通い易さで高校を選んだ口だという。


クラスメート達がニュースや実際に知り合いの先輩から聞いた話によれば、その先輩はその犯人の黒鷹生と付き合っていたらしい。
しかしそんな彼と一緒に歩いているだけで喧嘩に巻き込まれることもしばしばで、悩んだ彼女は彼と別れることを決意した。

友人の証言によれば正に昨日、彼女は相手の彼に別れを切り出すつもりだと話していたという。
そして昨日…事件は起こった。






「きっと別れ話に相手がキレて先輩のこと殴ったんじゃないか、って。警察も先輩の恋人の名前は突き止めてるみたいだからきっと犯人すぐ捕まるわよ」
「そっかあ…早く捕まると良いね」
「だからシンちゃん、今日からうちの車で一緒に帰ろうよ。1人で帰るの危ないし」
「大丈夫だよ、うち遠いから悪いもん」
「でも…」
「それにバス乗っちゃえば危ないことなんか無いでしょ?」



だから大丈夫、と私は笑って言った。

まどかちゃんの申し出は凄く嬉しかった…が、お願いしなかったのはただ私自身があのまどかちゃん家の大きな黒い車に乗せられて送ってもらうことに抵抗があっただけだ。
実は一度だけ送って貰ったことあるんだけど、あの雰囲気はどうにも肩が凝って仕方ない。

私にはお嬢様なんか向いてないなって改めて実感したのだった。