痛いあまり何も言えない灰希を見て顔が引きつった。

さすがに今のは痛そう…。


「テメェー、誰に向かって言ってんだ?あぁ?」


指の関節をポキポキと鳴らしてしゃがみ込む灰希に怒りを剥き出しにする美奈。
その表情はまさに鬼のような顔。


『み、美奈っ!』


廊下にいた人達が美奈を見て固まっていた。
美奈も周りの人達の目に気づいて、鬼のような顔を引っ込めて逆に満面な笑みを浮かべた。


「…もう!七瀬くんったら!酷い事言うんだから~!」


アイドルみたいな可愛らしい声を上げて灰希の肩をバシバシと叩いた。
私はいつまでたっても起き上がらない灰希が心配になって目の前にしゃがみ込んだ。


『灰希…、大丈夫?』


前髪で隠れている顔からは今どんな表情をしているのか分からず、私は余計に心配になって蹴られた足に触れようと手を伸ばした。


「大丈夫だから」


けどその手は、灰希の手に寄って直ぐに止められた。
痛みが収まったのか立ち上がった灰希は地面に落ちた鞄を拾い上げて、下にいる私に手を差し伸べて立ち上がらせてくれた。


「さすが元ヤン、いい蹴りしてるわ…っ」

「やだー、そんな褒めないでよ!」

「そこで照れるな」

『あはは…』


美奈は去年までかなりの問題児で先生もお手上げなくらいだった。
でも、私と出会ってからはヤンキーを卒業して、普通の女の子として学校生活を楽しんでくれている。


『てか、二人とも早く行こーよ!先生来ちゃうよー!』

「きゃっ」

「うわ、押すなって」


二人の背中をグイグイと押して教室へと急がせた。