過去作品集○中編


達也が笑う。
たったそれだけの事が妙に嬉しかった。

『達也? 家過ぎたけど……』

自宅の前を通っても車を止めてくれない達也。

『あ、悪い……』

どうしたんだろう。
さっきまであんなに笑ってたのに……

『亜由美。 「達也」って呼ぶの違和感あんだけど』

『え?』

『前は「達ちゃん」じゃなかった?』

何それ。
そんな小さな変化、気付いてくれてたの?

『……達ちゃんのがいい?』

『別に?』

ニッと意地悪な笑みを見せ達也は言う。

『そっか! じゃあ私は行くから桜さん達によろしくね』

達ちゃんって呼んでた事を覚えてる。
それだけで、付き合ってた事実があるみたいで嬉しい。

達也と過ごした数ヶ月は、決して無駄じゃなかったんだ。





『ただいまー……』

家に入ると同時に名残惜しい気持ちがあふれる。

まだ、外にいるのかな?
連絡先とか聞いてもいいのかな?

また会ってもいいのかな……?

考え出したら止まらなくて、勢いまかせに家を出る。

少し離れた自販機の前に、明かりに照らされた乗用車が見えた。

まだいる。

携帯の入った鞄を抱きしめ、ゆっくりと歩き出す。

しかし、自販機の影に隠れるように座る2つの人影に、私の足は凍りついたように止まった。

一つは達也。
そしてもう一つは、私の知らない女の子。

……誰?

『洋子、今日は眠いし勘弁だって……』

『いいじゃぁん! どっかつれてってよ!』

洋子と呼ばれる彼女は、達也の肩にもたれ甘い声を出す。

『マジで、そういうのウザイんだって。 今日は帰らせて』

達也の言葉に、足がすくんで動けなかった。

達也の表情が、あの時とそっくりで……

【要らない】って言った時の表情……

やめてよ。
もうそんな顔見せないで……!

胸が、痛い……