過去作品集○中編


『お疲れ様です!』

午後8時。
きっと今日は会える。

翔くんに会えるんだ。

いつものコンビニも寄らずに通り過ぎ、駅へ猛ダッシュ。

『おー、お疲れー』

いつもと反対側のホームに行けば……
ほら、会えた。

『翔くんもお疲れ様!』

頑張って走ったかいがあった。

数日ぶりの翔くんの笑顔が見えたから……

『達也に会ったんだって?』

翔くんは苦笑混じりにそう言って、ベンチに座る。

『……達也から?』

『いや、桜から』

桜って……あの子?

『ほら、達也と一緒だったろ? ネックレス買いに行ったって』

そうか。
翔くんは達也の親友。

昔の私みたいに、きっと桜さんの相談も聞いてるんだ……

『桜さん、何か言ってた?』

私の事、悩んでたとか。
ショック受けてたとか。

『別に? ただ綺麗な人だって褒めてたよ』

『……え?』

何それ。
私、あんな酷い事したのに何とも思ってないの?

嫌な女だって、怒ってないの?

『すごい可愛いネックレス手に入れたって喜んでた』

『そ、そう……』

完敗だわ。
嫉妬してばっかの私じゃ、達也と続かないはずだ。

達也には、桜さんのような寛大な人じゃなきゃ駄目なのね……

『桜さんって凄いよね』

『うん?』

『あんなに小さいのに、中身は大人なんだもの』

元カノなんて気にしない。
そんな彼女を心底、羨ましいと思った……

『そうでもないけどね。 はやとちりするし、向こう見ず』

『はは、そう?』

『でも、いい女だよ……』

少し照れ臭そうに髪をいじり、話す。

そのしぐさに、嫌な胸騒ぎがした。

もしかして翔くん……
桜さんの事……

『学校終わると必ず家に来て、温かい夕飯を用意してくれるんだよ。 笑顔で「おかえり」って……』

そうだ。
間違いない。

翔くんも、桜さんが好きなんだ……