過去作品集○中編


『亜由美……?』

驚いたように目を丸くして、こちらを見る達也。
悪戯をしてから後悔……

私、彼女の気持ちを考えてなかった。

達也が他の女の子といて傷付いていた自分を、もう忘れてしまったんだ。

最低だ、私……

『桜』

『うん?』

達也は彼女の肩を抱き寄せ、口を開く。

『俺と翔の後輩の亜由美だ』

……え?
紹介してくれるの?

こんな私を?

『そんで、俺の元カノ』

……言ってしまった。
一番、彼女が傷付く言葉を。

言わせてしまったのは私。

どう謝ったらいいんだろう……

『後輩……と、元カノさん?』

と、彼女はキョトンと真ん丸な目をして言う。

『じゃあ、また高校生の頃の話とか教えてくださいね』

『へ?』

『私が出会った時は、もう二十歳くらいだったんですよー。 制服姿とか見たくって』

そうだった。
この子、不思議ちゃんだったんだった。

全然気にしてないって感じ……

『桜。 ネックレス見るんだろ?』

と、おしゃべりの止まらない彼女の唇に、人差し指を一本立てる。

『そうそう、これなんだけど』

ようやく本題を思い出したようで、ガラスケースの中身を指差した。

『ちょっと地味じゃね?』

『そうかなぁ、似合うと思うけど』

『俺はこっちだな。 こっちのデザインが好きだ』

頬を膨らます彼女をよそに、達也はすぐ隣のネックレスを指差す。

チェーンに天然石のチャームが着いたシンプルなネックレス。

それも、私がデザインしたものだった。

『なんかイメージ違いますよ~。 何て言うかもっと……』

『だから、俺の好みだっつってんじゃん』

可愛らしい顔して、結構すごい子だ。
あの達也に食らい付いてるもの。

うん。
これは完全に尻に敷かれてるな……