過去作品集○中編




『……変な夢』

朝日が差し込んだ事と、キッチンから漂うトーストの香りに夢は中断される。

『起きた? 朝食あるよ』

桜は顔を覗き込むようにして、優しい笑顔を見せた。

『寝言言ってたよー?』

『……え?』

『何か恐い夢でも見た?』

いや、むしろ逆だ。
この短期間で、あの少女に愛しさまで感じてしまったくらい。

『……もう少し先の、未来の夢』

うん、そういう事にしておこう。






『たくさん食べてね!』

キッチンに行くと、トーストやスープ。
スクランブルエッグまで用意してあった。

マジで、先の未来があの夢でもいいって思った瞬間だった。

『いただきます』

桜の笑顔を見ながらパンをかじると、こんなにも暖かい気持ちになれるなんて、思いもしなかった。


『つーか…… 俺、今からユカと約束あるから出かけるけど』

『へ……?』

桜はマヌケな声を出して、口に入れるはずのパンをポロリと落とした。

『はは、心配すんなよ。 ちゃんと話して別れてきたいから』

『そ、そっか、そうだよね!』

不安を隠すような不格好な笑顔に、思わず笑みが漏れる。

きっとまだ自信がないんだろう。
ちゃんと愛されてる自信が……

『昼には帰るから、午後から病院行こう』

『病院……?』

『うん。 桜も、桜の赤ちゃんも元気かちゃんと診てもらいんだ』

桜を好きだと気付いた時から、ある程度の覚悟は出来ている。

桜の選んだ道を、共に歩いて行こうって……

半分は桜の遺伝子で出来てると思えば、嫌いになれるはずないのだから……