「倫子!」
……聞き間違いかと思った。
だって、こんなのあまりにも出来過ぎている。
でも、振り返った先には、――信也さんがいた。
間違いない。
見慣れたコートに、少しだけ色素の薄い髪。
高すぎる背。
しかし、何やら険しい顔で、こちらに走ってくる。
私は、反射的にダッシュで逃げた。
どうして、と思う前に体が動いていたのだ。
赤い絨毯の通路を抜けて、階段の前まで行ったところで老婦人とぶつかりそうになり、急遽方向転換。
丁度、開いて誰もいなくなったエレベーターに、駆け込むように乗り込んだ。
「待ってくれ……!」
(嫌っ……)
私は、エレベーターの『閉』ボタンを力強く押した。
左右から一気に扉が迫り、どんどん彼が見えなくなっていく。
(これでいいんだ……これで)
がしゃんと扉が閉まり切った瞬間、私は奇妙な安堵を覚えていた。
だが、
ぎぎぎ……ぐいっ……



