アルカディア少女


それからの数分後、斉藤は必要以上に彼へと近づき、無駄な質問ばかり彼に尋ねた。


尋ねるたびにボードを掲げ、彼の注意を引こうとする女。しかし、アメフト絡みだからなのだろう、彼は聞かれる度にそれに答え、その度に無意識のうちにボードの上に指を走らせ、彼女はその度にその顔を赤らめるのだった。


なんて最低なサイクル。そう思うのはやはり、それを見詰めるもう一人の女。詩織。彼女だった。


彼女は孝一の恋人だ。
彼女は彼を愛している。


人間、愛する人が自分とは別な人間の隣にいれば、しかも、今にも触れそうな距離にいるとすれば、嫉妬に胸を狂わせることになるのは仕方が無いことなのである。彼女もまたその例外になることはなかった。

だから、今彼女は嫉妬のために自分の小さな拳を固く握りしめている。



「孝一くんったら、それぐらい解かるわよ~。」
高らかに笑う、不自然なほどに耳障りな声だけが、彼女の耳に入り込む。今、詩織の視線の中には醜い山姥のように笑う女の隣に、長い指先を伸ばしたままの彼という存在がった。

熱い嫉妬の感情が、視線の先に存在に注がれる。



「愛してなんて・・・・」


彼女は低く呟いた。嫉妬に震える、その声。
握り締めた小さな拳が、嫉妬の強さに比例して、
集まり止った血のために、赤く染まった憎悪の想い。