アルカディア少女


覗き込んだ視線の先、そこにはあったのは今にも泣き出しそうに歪んだ君の顔で、今にも何かが零れそうな君の瞳だった。
俺はふと、こんなふうに辛そうな顔をするのは、いつもの彼女らしくないなったとそう思った。

そして同時に、これほどまでに彼女を追い詰めるものは一体何なのだろうかと、疑問が過ぎった。


今この瞬間、2人だけしかないない部屋の中。
俺等の見詰め合う互いの瞳が重なった。
やっぱり、彼女の体は震えていた。


「なぁ、詩織。俺が何かテメェにしたか?」


掠れる声。わざとじゃなくて、本気で不安になったから、無意識のうちに声が掠れてしまっていた。彼女が小さく頷く。俺の心臓はナイフで一突きでもされたかのように、一瞬の痛みが走った。


「俺がテメェを追い詰めるようなこと、何したんだ?」


辛そうに何かを、溜め込む彼女の瞳を見据えながら、そう尋ねた。もしかしたら、口では誤魔化されてしまうだけかもしれないから。


「別に・・・」しかし、見据えた瞳は嘘をつけない。見据えた彼女の瞳は、溜まった何かの上に否定の色を浮かべていた。


腕の中、彼女の震えがより一層強くなるのが直に解かった。
「だって・・・。」
少し戸惑いがちな彼女の声、その声すらもやっぱり少し震えていて、俺は切なさに胸が苦しくなり、どうしよもなくなって、彼女を抱きしめる腕の力をさらに強くした。


彼女は話始める。彼女の唇から紡がれるのは、切なそうに震える声で、その声が物語るのは数十分ほど前の出来事。あまりにも悲しそうに話す彼女の声だけが、この部屋一杯を満たした。


悲しみの物語の中に今、2人きり。