アルカディア少女

「なんで、そう思うんだ?」
掠れた声。苦虫を噛み締めたように発せられたその言葉。しかし、女は気がつかない。


「だって、そうじゃない。たしかにソコラ辺にいる女よりもあの子は孝一くんには相応しいけど、孝一くんにはもっと素敵な相手がいるのよ。そして、孝一くんはその相手にとうとう気がついた。本当は彼女と付き合う前から気がつくべきだったはずだけど、その人はけして貴方を責めることはないわ。」女は言った。


「だって、詩織ちゃん貴方と私と足元にも及ばないほどじゃない!」
女は叫ぶ、女の方が荒げた声と憎悪のために上下に動いていた。孝一は黙って、斉藤の見詰めた。


「でも、貴方はとうとうあの子を捨てて、この私を選んでくれたわ。」
斉藤はそう言うと、孝一を真っ直ぐに見詰めそしてその腕を伸ばした。その動作はまるで、引き寄せらせることを図々しくも望んでいるようで。


「その俺の相手が、お前っツウことなのかよ?」掠れた声が吐き捨てられる。
「ええ、そういうとよ。あなただって最初からわかってたはずじゃない。」
嬉しそうに微笑む女の顔は何度見たって掠れて見えた。


女は手を伸ばす、孝一はその手を引き寄せた。思い切り。


「キャッ、痛いじゃない!」

女は確かに彼によって引き寄せられたが、その行き場所は彼の腕の中ではなく、冷たく固められた床だった。数分前にその床をカウンターに隠れる彼女が踏みつけていた。
バタンッと女が倒れる音が部室いっぱいに反響する。孝一の手はもう女のどこにも触れてはいなかった。


ガチャリッと音が今度は部室の中で反響する。壁に当たって跳ね返った音は確実にカウンターの下にまで届いたはずだ。


「ちょっと、孝一くん。何してるのよ?」
恋人のそれとは違う震え声に、孝一は無感情に斉藤の頭に手に持つマグナムの銃口を押し付けた。恐怖と押し付けられた痛みに、悶えむ床にひれ伏す女。


「孝一くん、孝一くんは私を愛してくれているんじゃなかったの?」思い込み女がそう叫ぶ。
「ンなわけねぇだろうが、お前なんてどうなったって良いんだよ。」無感情に冷たく彼はそう言い放った。時計の秒針が移動している。