部室という空間にいる2人。
一人はカチカチと音を立てながら、キーボードに文字を打ち込み、一人はそのもう一人の目の前で腕を組み立ち尽くしていた。

「ねぇ、孝一。私のこと愛してないんでしょう?」


彼女がそうやって冷ややかな笑みを俺に向けたから、ああ、俺は彼女が完全に憎悪感という一種の人間的感情をこの俺に向けているのだろうと、そう感じた。
そう、それは感覚的にでもあり、肉体的でも。


今、俺は部室にいる。
目の前で冷笑する彼女も部室にいる。
部室にある時計がカチリと音を立て重なった。


気がつけば俺等がこの部室で2人きりになってから、たったの5分しかたっていなかった。


「ああ、辺り前じゃねぇか。テメェを愛さねぇで俺は一体誰を愛するってんだよ。」


彼女の冷ややかな視線を感じ、俺は手の動きを止め、まっすぐに彼女の瞳を見据えた。
見据えた瞳はやっぱり氷のような冷たさを放っていた。重なった瞳がほんの少し痛む。


俺と彼女の瞳がほんの一瞬だけ、
音を立てて重る。


俺は一瞬で彼女を想う愛しさに拍車がかかるような、そんな気分に陥るが、だが、彼女はそんな俺の思いとは裏腹に部室の秒針時計が動き出すかのように、フンと1つ鼻を鳴らして、この俺に背を向けた。

だから、今俺が見えるのは彼女の冷たい瞳ではなく、骨が浮き出る小さな背中。
気のせいであればいい。
その背中が微かに震えているように、そう見えた。