蒲公英


「湧己…」




不意に熱くて柔らかいものが僕にのしかかってきた。

見るとそれは酔っ払った春日だった。




「おい!春日!?」




慌てた未来が春日に手をかける。

だが春日は僕に絡みついたまま離れようとしなかった。




「春日?」




顔を覗き込んで尋ねてみる。

酔っ払いらしく瞳は虚ろで、ちゃんと僕が見えているのかさえわからなかった。

河南子の視線が少し痛い。




「湧己…。本当に…、結婚しちゃうの?」




それだけ呟くと、春日は聞き返す時間も与えず眠りについた。

未来が奪うように春日を抱きしめる。




「おい。春日に手ぇだしたら許さねぇからな」

「は!?今のは春日が勝手にっ!」

「いいから覚えとけよ」




本気とわかる、少し震えた低い声。

未来は春日に関してだけは融通が利かない。

僕はあきらめてため息をついた。




「…死んでもださねぇよ」




返事はないまま、未来は春日を寝室に運んでいった。

そして河南子に声をかける。




「河南子さん。悪いんだけどしばらく春日を見ててやってくれない?俺、ちょっと湧己と話があるから」




河南子は少し複雑そうな表情で頷いた。

それもそうだろう。

先ほどの春日の発言は誤解を生んでも仕方ない。

河南子の視線がそれをありありと物語っている。