蒲公英

僕はふっとため息をつき、小声で河南子に言った。




「俺にあれをやれと?」




心底嫌そうな声をだしたのはささやかな抵抗のつもりだ。

正直、河南子と人前でいちゃつく気にはなれない。

河南子は頬を染めて俯いた。




「なんか言ったか」




未来が再び僕を睨んだ。




「もちろん素敵な夫婦ですことって言いましたよ?」

「わかればいいんだよ」






それから僕らは本格的に飲みだした。






未来と春日が語る結婚生活の秘訣とやらに、河南子は恥ずかしそうに視線を泳がせながらも真剣に頷いた。

紙とペンがあればもれなくメモする勢いだ。

だがそのほとんどはその場で僕が却下した。

結婚してから5年間、いってらっしゃいのキスは欠かしたことがないなど、のろけ話もいいところだ。

僕と河南子にはとてもじゃないができそうにない。











そうして酔いが回るにつれて、幾度となく口にされる5年というフレーズが次第に僕の頭を支配し始めた。














―5年後…。
















鳴りやまない、幻聴と共に…。