「春菜、ただいま」


そっと頭をなでる。


子供を生んでから３日、春菜はずっと目覚めないでいた。


赤ちゃんを生んだあの日、春菜はなかなか血が止まらなくて、意識を失った。


たまたまその日大きな事故が近くであり、輸血用の血が足りなかったから、同じ血液型の俺とお義母さんと俺の母さんの血を採って春菜に輸血した。


それでも、春菜は目覚めない。


「春菜、赤ちゃんの名前決めたからな。春樹って言うんだ」


春菜の春と、弘樹の樹。


春に花咲く樹のように、明るく元気な子になって欲しい。


そんな思いでこの名前をつけた。


「春樹も早くお母さんに会いたいって」


声をかけても、春菜の反応はない。


「だから、早く目を覚まして」


それでも声をかけ続ける。


春菜が早く目を覚ましますようにと願って。