「違うよ。いや、ゲン太は、刀を見るのも嫌がってたんだ。親が、切り殺されてから。
だから、極力あの二人に会うときは、刀は持っていかない。今日みたいにばったり出くわしたときも、出来るだけ隠すんだ。」
そう言えば、沖田は二人に出会ったとき、自分の着物の袖を使って、刀を前から見えないように隠していた。
今思えば、永倉も同じような動作をしていた。
「そうなんですか。」
「うん。でも、ゲン太は、さきを守るために、剣術を覚えているんでしょ?」
「はい。といっても、俺が教えるものですから、実践的ではないですけど・・・。」
あくまでも、未来でスポーツとして楽しんでいる剣道だ。
この時代、あまり役に立つとは思えなかった。
でも、沖田は少し嬉しそうに話し出した。
「いいんだよ。ゲン太は、小さくても確実に、過去の悲しい現実から一歩を踏み出せたんだ。それだけで、十分だよ。ね?」
沖田の言葉に、奥村は少し安心した。
この時代に来て、初めて役に立てた実感が持てたのだ。
「優希にも、教えてあげよう。」
沖田は嬉しそうに屯所に足を運んだ。
「沖田さんも、これから仕事ですか?」
「うん。零が今、日常業務からはずれてるから、いつもより当番が回ってくるのが早いんだ。」
苦笑いを交えて、沖田が話す。
「夜風さん、最近見かけませんもんね。」
「夜中に帰ってきて、朝から出てるみたいだからね。でも、優希に任せておけば大丈夫。
きっともうすぐ片付くよ。」
何をやっているのかわからないのは、ちょっと辛いけどね。
と、最後にぽつりと本音をこぼし、沖田は屯所の中に入っていった。
その寂しそうな後姿は、数日前、道場で優希を見送った永倉の背中と、少し似ていた。

