歴史上、沖田と永倉の間にどれほどの差があったのかは分からない。
それでも、言葉から沖田が永倉を認めていることは分かった。
だが、天才剣士と名高い沖田と張れるのだ。
優希の腕は相当いい事が、深く考えなくとも奥村には分かった。

それと同時に、この間の道場での出来事が思い出された。
優希のことを、弱いと罵った隊士がいたのだ。
その時のことを、奥村は沖田に話した。

「うわぁ、そんなことがあったんだ。奥村君、そのこと土方さんには話しては駄目だよ。
 局中法度を破ったことになる。藤野君は切腹ものだ。」

奥村に念を押すと、沖田は話し出した。

「薄々感じてるとは思うけどさ、新選組の中には、優希のことをよく思っていないやつも結構いるんだ。」
「やっぱり、そうなんですか。」

それは、奥村も感じていた。
道場での件があってから、少し周りを気にしてみると、優希に不快な視線を送っている隊士は目に付いた。

「でも、前に比べたらだいぶよくなったんだ。芹沢さんたちがいた頃は、もっと批判があからさまだった。それで、怪我をすることもしょっちゅうだったし。」

芹沢鴨、新選組の名を貰う前、壬生浪士組時代に局長だった男だ。
歴史上、沖田たちの手で暗殺されたことになっている。

「今は零の隊長だから、隊士達も手出しできなくなったから、前のように怪我をすることも、罵声を浴びせられることもなくなった。でも、心のそこで不満に思っている人は、少なからずいるんだよ。」
「強いのに、批判を受けるんですか?」

奥村の言葉に、沖田は苦笑いをこぼした。

「認めたくないんだと思う。自分より強い、しかも女、って言う存在が。こんな時代だからよけいにね。」

沖田の言葉に、奥村も少し納得した。
自分が住んでいる時代とは違うのだ。
女が、男の前を行くことは、この時代において考えられないことなのだ。