家につくと一回深呼吸。
お母さんやお父さんに気をつかわせないように元気に振る舞うためだ。



「ただいまー!」

「!!おっおかえりー今日は遅かったのね?もう夕ごはんの時間よー」

「友達と遊んでたのー…手を洗ってくるね?」

「うん」



お母さんの声が…少し変だった。
泣いていたんだと思う。
語尾が震えていた。



「…ただいま!お父さん」

「うん…おかえり!」

「………で、先生は?」

「……………」



先生と言えば普通は『学校の先生』、『塾の先生』。
だけど私の場合…



「病院…行ってきたんでしょ?先生は?」

「…やっぱり…あと一ヶ月らしい……」

「そっか…まぁ自分でもなんとなくわかってたから…先生からもらった薬も……飲みだしたら全然、苦しくなくなったし」

「…薬を飲んでさえいれば…苦しくはないらしい。ただ、治るわけではない。本当にいいのか?」

「……もう…いいんだよ。
疲れちゃった…って言ったら怒るだろうけど……
それが本音だし……ゴメン」

「………お母さんは……本当は…まだ治療を続けてほしいのよ?だって…まだ…こんなに元気に生きてるじゃない……絶対に治らないわけじゃないのに………なのに……」

「やめなさい。苦しむのは…一番つらいのは美里依なんだから…」

「…ごめんなさい。」

「…行きたい場所とかないか?できるだけつれてってやるから…食べたいものとか…」

「ありがと…でも…普通に生活したいや…」

「…そうか…」



1年前…私は入院した。
病名は知らない。いや…
怖くてそこまでは知りたくなかった。
それからずっと入院し続けて、治療とか手術したけど…とうとうダメらしい。
それがわかってからは退院して…学校に通っている。
友達には…治ったということにして………
皆仲良くしてくれて…薬のおかげで運動以外は結構…普通にしている。
だけど…私は確実に死ぬ。
それが怖くて…どうせなら自殺して一瞬で死のうとか思ったけど………


それさえ怖かった。



「……ねぇ…お父さん…」



ふいに…南 蓮人を思いだしてしまった。



「南…蓮人って知ってる?」

「??!!」

「あっ…知ってるんだ…誰なの?あの人…」