「なんだよ、何にもねぇし」

心底うざそうに呟いたあと、カウンター越しに振り向き、立ち尽くしているあたしに向かって

「せめて水ぐらいは置いとけよ」


と睨みながら言い放ち、男はポケットから携帯を取り出し、開いた

時間を見ているようだった


ちっと舌打ちしてから、また携帯をしまい、玄関に向かって歩き出した


帰るようだ


勝手に人の冷蔵庫開けて、文句言い、一体この男は何をしているんだ?


口に出して問い詰めたいが、言葉がうまく出てこない


そして帰るのか?
普通は好きな女と二人きりになったら、襲いたいものじゃないの?


果たしてこの男は本当にストーカーなのだろうか?


あたしは方針状態の体を、やっとの思いで動かした


「いたっ!」


自分で置いたルービックキューブをまさか自分が踏むとは思ってもみなかった


痛さを堪えながら、玄関に向かい、閉まる扉に手をかけた


10メートルにも満たない距離なのに、まるで100メートル全速力したかの様に、息があがった


「あ、あなた、何者?!」


やっと出た言葉は、これだけ


扉に手をかけたままのあたしの唐突な質問に、眉をひそめる


男はゆがめた顔から、一瞬寂しそうな顔をしたと思ったら、唇をにやりとつり上げた


「俺はお前の事覚えてるぜ、みぃちゃん」


そう意味深に言いはなち、あたしの手を、扉から離すと、閉めて出て言った