「何やってんの?」


横になっている、ストーカーの顔が、いつの間にかこちらに向いていて、目をぱっちり開いて、あたしを見ながら言い放った


「す、す、すすす、」

あたしの口がパクパクしている


「す?」

少し顔をあげ、首を傾げる


「す、ストーカー!」

ルービックキューブを置く作業にのめり込みすぎて、すっかり油断をしていたあたしは、勢いよく立ち上がり、男を指差して、叫んだ


男は一瞬左の眉をひそめ、すぐに目をそらし、体を起こした


とうとう襲われる!


あたしは、床においたフライパンと殺虫剤を慌てて拾い上げ、身構える


「な、何しても、無駄、だからね!」


男はあたしの言葉にうんともすんとも言わずに、ベッドの上に座り、うーんと欠伸をしながら、手を広げ伸びをする


伸びをした反動で、男の左腕のシャツがずれ下がり、大きな痣があるのが見えた


痣を見た瞬間、あたしの頭の中が、いつの日かの河原にスリップした



暑い夏の日、
夕暮れ時に、
川のせせらぎと、
蝉の鳴き声が聞こえる…



あたしが痣を見ているのに男が気付くと、右手で袖を隠した


男と目が合う


きりっとした目元に、緑かかった瞳、細い鼻筋、黒髪の短髪に少し寝癖がついている


やっぱりあたしは、この男を知らない

今のは一体何だったのだろう


我にかえった、あたしの体に力が入る


男が口を開く


「うるせぇ、女」


「はあ?」


思わずあたしは口をあんぐりさせてしまった


ストーカーというものは、あたしの事を好きなのでは?


好きな女との初めての会話で、ストーカーというものは、うるせぇと言うのだろうか


考えを巡らせている間に、男はルービックキューブを跨ぐように立ち上がり、狭いキッチンに向かい、頭をボリボリ掻きながら、冷蔵庫を開く