「──忘れたなんて、言わせないから」
その言葉と同時に、授業1分前の予鈴が鳴る。
「先生の好みって、致命的だよね」
「どういう意味だ」
「折角カッコイイのにさ。あんな『どピンク』のクマが好きだなんて」
俺だって好き好んでこのクマを好きになったんじゃない。
だが、あの芸術的なまでのフォルムをバカにされるのは面白くない。
ぬいぐるみひとつとっても、個体差があって、あの絶妙な輪郭を持ってるヤツは少ないんだ!
そのどピンクなクマと同じ様な感覚をお前に感じてるなんて言ったら、さすがのコイツも引くんだろうな。
「ねぇ、知ってる? クラスの女子達が言ってたんだけど、先生って結構人気有るんだよね」
「別に生徒からの人気やなんやらを期待していたり気にしている訳じゃないが、頼むからコレだけは言わないでくれ」
ふい、と俺から視線をそらした白木は、くるりと踵を返して準備室の扉まで歩いていく。
そして、顔だけ振り返らせて、もう一度その瞳に俺を映す。
「言わないよ。俺と先生の秘密だもん」
──絶対に、誰にも言わない。
ニヤ、と小悪魔的な笑みを浮かべて、白木は付け足した。
「じゃあ、またね。先生も授業遅れちゃうよ」
カラカラ、と扉が閉まるのと同時に、本鈴が鳴ってしまった。


