「溺れてなんかないです。」


 正面を向いたまま、窪田の方を見ず龍一は不満気に言い返した。


 龍一の反抗的な態度は、仕方のないことだと窪田はわかっている。


 龍一は若い。


 30にも満たない若者だ。


 自分にもかつて本気で愛した女が二人いる。


 一人は、ちょうど龍一と同じ年の頃、窪田の若さ故に帰らぬ人となった。 


 もう一人は、窪田は彼女の身を案じ、遠くから見守ることを選んだ。


 龍一に自分と同じ過ちを犯して欲しくなかった。


「で、頼みたい事って何だ?」


 窪田は溜め息交じりに尋ねた。