「思い通りに行かないと、怒り出すの、お前の悪い癖だ。」


 龍一が嗜めるように言った。


「父が、凶悪な犯罪者を、世にはびこらせていると思うと、苦しいの。父が裁判で、卑劣な奴を無罪にするたび、死にたくなる。」


 美百合はそう言って泣き出した。


 今度は泣き落としか、と龍一はまたしても深い溜め息をついた。


「大好きなパパが、犯罪者の手助けをしてるなんて、耐えられない!」


「は?」


 最初、龍一は聞き間違えたのかと思った。


「今、『大好きなパパ』って言った?」


 龍一が問うと、美百合は黙って頷いた。


 随分長い間、龍一はじっと動かず何か考えていた。


 ようやく口を開くと、


「わかった。」


 とだけ言い、美百合の部屋を出て行った。