おしゃべりな百合の花

「ねぇ、キスしないの?」


「は?」


 またしても的外れのトンチンカンな質問だ。


「そういったオプションは取り扱っておりません。」


 セールスマンのように、少しふざけて丁寧に断った。


 また美百合が可笑しそうに笑った。


 先ほどの暗い身の上話を聞いた直後だからか、何故か美百合の笑顔は寂しげに映り、龍一は切なくなった。


 『抱きしめたい』…そんな想いまでもが生まれ、慌ててよろしくない思考を塗り潰す。


 それからは、実に他愛ない会話をやり取りし、気付くと日は落ちて、辺りは薄っすら暗くなりかけていた。


 任務完了。


 ただ、龍一はやり残した事があった。


 美百合が、自分に完全に嫌気がさすようなシチュエーションをプレゼントしなければ。


 今後も美百合に思いを寄せられては、すこぶる都合が悪かった。