-数年後-

俺はスラム街にいた。

土に塗れ、ひび割れた足はいつ靴を失ったのかわからない。
元の服はとうに失い、体を覆う布切れはどこで拾ったかもわからない。
黒い羽を持つ俺はこの数年間で数え切れないほど気味悪がられ、叩かれ、汚された。
おそらく汚されていない部分などないだろう。
なるべく気配を消して、皆が寝静まった後にゴミの街を徘徊し、食い物を探して飢えをしのいでゴミのように眠る。

法というものは無く、おおよそ良識のある人間全てからゴミ扱いされているこの町と俺は一体化しているように思えた。

近づいてくる足音、視線は上に向く事は無い。
足元に落とされたパン、一瞬の沈黙と被りつく自分。
首筋に刺さった小さな痛み、そこからの記憶は…













無い。