「!!?……な…。」

「…。」

あまりにもあっさりと、当然のように自身の腕が掴まれる。
刹那伝わってきた相手からの『何か』
身体の中の、底の底から這い上がってきたかのような恐怖心。
強い力で握られている訳でもなく、反撃される訳でもない。
ただ『腕を掴まれている』だけだというのに…あぁ、なんでこんなに震えているのだろう。

「……フゥ。」

人間は感情と、記憶と、精神で動く生き物である。
故に過去に起こった幸福な出来事を思い返せば人は喜びに染まり、不幸な出来事を思い出せば悲哀に染まる。

この時、男は通常なら絶対に聴き取れないであろう『呼吸音』
そこにあるかなしか含まれた僅かな声が電流のように身体を痺れさせる。

記憶にないはずなのにまるであらかじめ刷り込まれていたかのような肉体の拒絶反応。

「……どうして…ここまで…。」

渾身の力を込めて離れようとしているカミヤに対し、男は静かに呟く。
まるで失望したように、それでいて悲しそうな…静かな声で。