「…。」

「……ん?」

急に目の前を歩く蛍の足が止まる。

「なんだ?買い忘れか?」

「…ううん、なんでもないよ。」

振り向いて淡く微笑む彼女の顔は、可憐だけどどこか怪しかった。
…俺と違ってこいつは嘘が上手い、多分追及したところで本心は語ってくれないだろう。
だが気分の良いもんでもない。
こちらとしても無理やり問い詰める気はないが、時折蛍が俺を見る際の、あの暗い表情が俺は好きじゃなかった。
…まるで言いたいことを無理やり抑えているような。

…あぁ、まだ怖がられているのかもな。

杞憂かもしれないが、そんな考えが頭をよぎる。
レビィやラックに偉そうに意見できるほど、俺は別に強い人間じゃない。
その辺にいる生徒と、中身は大して変わらないのだ。

(…仮に記憶が戻ったら、この悩みは無くなるのか?)

どことなく元気を無くした蛍の隣を歩きながら一人考える。
自分の記憶を俺は取り戻したいのか、このままがいいのか。