-寮屋上-
満月に照らされる夜、本来選ばれた者しか入ることの許されない空中庭園に先ほど案内をしていた男がいた。
顔を隠し、代わりに別のものを移していた…夜の闇と同じ…漆黒の羽を。
指先に戯れる蝶たちと遊んでいた時、近づいてくる足音が聞こえると男は蝶を振り払って物陰に隠れる。
自分より位が上で…まだ素姓の解らない内は。
「へェ…綺麗な場所があるもんだ。」
着の身着のままで屋上へとたどり着いたカミヤは、その幻想的な雰囲気に思わず溜め息をついた。
鈴虫の鳴き声に包まれ、ここまで来たことで僅かばかりに火照った体は初夏の夜風に撫でられ心地よく冷えていく。
噴水前の小さなベンチに腰かけると、先客の気配を感じて視線を向けた。
「出てこいよ、覗き見するくらいならな。」

